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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和56年(家イ)84号 審判

申立人 中井安文

相手方 中井浅子

主文

申立人(原告)と相手方(被告)とを離婚する。

当事者間の長男忠夫(昭和四二年七月一二日生)及び二男正義(昭和四七年五月九日生)の親権者を相手方(被告)と定める。

申立人(原告)は相手方(被告)に対し、離婚に伴う財産分与として別紙物件目録1、2記載の土地の持分各二分の一及び同目録3記載の建物を譲渡し、それぞれの持分及び所有権の移転登記手続をせよ。

理由

一  本件調停記録及び審問の結果並びに福岡地方裁判所小倉支部昭和五五年(タ)第六七号離婚請求事件の記録を総合すれば次の事実が認められる。

1  申立人と相手方は昭和四一年五月一四日婚姻し、昭和四二年七月一二日長男忠夫、昭和四七年五月九日二男正義をもうけた。

2  申立人と相手方は昭和四九年五月からは北九州市戸畑区において同棲していたが、夫婦仲が不和となり、昭和五〇年一二月申立人は単身家を出て福岡県築上郡○○町の実母方に住むようになつた。申立人には元来放浪癖があつたのであるが、昭和五一年四月から行方をくらまし、昭和五五年一〇月一一日再び実母方に戻るまで所在不明となつた。

3  前記実母方に戻つた申立人は昭和五五年一二月八日相手方に対し離婚請求の訴を福岡地方裁判所小倉支部へ提起したが、同裁判所は昭和五六年一月二八日の第一回口頭弁論期日において右事件を当裁判所の家事調停に付する旨の決定をした。

4  当裁判所は本件調停を開始したところ、申立人は調停期日に出頭せず、申立人代理人が出席して相手方との間で調停をしたのであるが、昭和五六年九月二五日の第五回調停期日において本審判の主文の趣旨にそう調停案に合意したので、申立人本人の出頭を待つて本件調停を成立させるべく期日を続行した。申立人代理人は申立人と会い前記調停案の内容を説明したところ、同人はそれを了解し調停期日に出頭する旨約したが、同年一〇月一日に突然家を出て所在不明となり、同月一六日の第六回調停期日に出頭せず、前記調停案での内容で合意を成立させることが不可能となり、本件調停は不成立となつた。

二  思うに、当事者の一方が所在不明となつている場合には、家事審判法二五条が当事者の異議申立権を認めていることに照らして同法二四条による審判をすることは原則として許されないと考えるが、本件の申立人のように、調停当初は所在不明ではなく、弁護士である代理人が存在し、同代理人が調停期日に出席して合意が成立し、その合意の内容を申立人に説明して同人が了解しているというような前記事情が認められる場合には同法二四条による審判をすることが許されるものと考える。

以上により当裁判所は、調停委員橋本万寿雄、同廣西英子の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、前記認定事実その他一切の事情を見て、申立人代理人と相手方との間で合意した前記調停案のとおりの審判をするのが相当であると思料する。

よつて家事審判法二四条を適用して主文のとおり審判する。

(家事審判官 草野芳郎)

別紙物件目録〈省略〉

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